プロダクションノート 第4回 DRTCHD01BK

ダーマポイント主要製品の取扱説明書巻末には製品に関するプロダクションノートが掲載されています。
お使いいただく製品をより愛着を持っていただくため開発チームの製品に対するこだわりや方向性など、いわば開発チームからユーザーへのラブレターとも言えるものです。

本来、ラブレターといえば公開などもってのほかとも思いますが発売から2年を経過したものもあることから一般公開を行うことになりました。
今回はダーマポイント初のヘッドセットであるDRTCHD01BKこれまでキーボード・マウスを手がけてきた開発チームがゲーミングヘッドセットと既存のオーディオ製品との立ち位置の違いを戸惑いながらもどのように確立したか、その一端を見ることができます。
開発時、各社ヘッドフォンの実測データを採り試作機の特性比較をおこなったのですが密室に閉じこもってのデータ取りに担当者が悲鳴を上げていたことも今となってはよい思い出です。

●ご注意

まず最初にお断りしておくが、本製品はあくまで「マイク内蔵のヘッドセット」であって「ヘッドフォンとマイクのセット」ではない。(注1)言い訳がましくて恐縮なのだが、その点を念頭に置いて以下をご覧いただきたい。

●ヘッドセットの立ち位置

商品として考えた場合、ヘッドセットは、非常に立ち位置の難しいデバイスである。

 
なぜなら、製品としては一体ではあっても、ヘッドフォン相当の機能と、マイク相当の機能がそれぞれ独立して存在し、相互に連携するものではないからだ。

アウトプットとインプットが相互に連携するような機能、というものが実用レベルでどの程度存在するものなのかについては恐らく様々な意見があるかと思うが、ヘッドセットの入出力は、基本的にはそれぞれ独立した機能であると考えるのが自然であろう。

そうなると問題になるのは、個別のヘッドフォン・マイクとの競合あるいは比較である。


一般にヘッドフォンの場合、装着感は一般に重さやイヤーパッド部などの形状、頭のホールド感、あるいは耳にかかる圧力などで評価されるが、これは装着者の頭の形やサイズにより、同一機種・同一個体であっても個々人の感想が全く異なったものとなる可能性があり、結果として数値化による客観的な比較は至難である。

また、音質にも難しい部分がある。ステレオ再生のデバイスとして考えた場合、ヘッドフォンには聴取者の脳内で再生される音像がスピーカー再生時のそれとは異なるものとなる傾向が強く、本来左右に広がるべき音像が前方中央に収束する、といった現象が発生したりする。このため、単純にユニット単体の特性を追い込んだだけでは駄目で、また、ハウジングの容積や形状の制約が強くスピーカーでは容易なn-Way化による帯域分割によるユニット特性の最適化も難しい、という事情も手伝って、単純に素直な特性のユニットを作ってハウジングに納めればそれで済む、というものではない。必要に応じ、ハウジングを複雑な形状に加工する、制震のために特別な機構を内蔵する、といった手だてを講じることが求められたりする。

そういった前提を踏まえて考察する限り、乱暴な比較になるが、同一価格帯で販売されているヘッドセットとヘッドフォンを比較する場合、ヘッドフォンのメーカーが間抜けなミスをしでかすか、それともヘッドセットのメーカーがよほどうまい工夫を思いつかない限り、ほぼ確実にヘッドフォンの方が音質面で有利になる。

製造プロセスが微細化すればするほどに製造コストや性能面での優位性が得られるデジタルの世界からするとやや理解しにくい話だが、アナログなオーディオ業界においては、基本的に音質はかけたコストと製品の質量に比例する、という嫌な性質がある。

無論、何が何でも重くすれば良い、あるいは金をかければかけるだけ良い、というものではないのだが、オーディオショップなり家電量販店なりの高級オーディオ機器コーナーをご覧いただけば明らかなように、その辺のいわゆる「ハイエンド」オーディオ機器と呼ばれる製品群においては、部品・構造・回路・材質の全てについて吟味を繰り返した結果、出力100Wに満たないモノラルアンプで3桁万円のプライスタグが付されることは珍しくも何ともないし、その質量が40kgを超えることもまた珍しいことではない。それに見合う主観的な評価に基づく結果(出力)が得られるならば全て許容される、そんな世界なのだ。

趣味の道具であり、多分に自己満足の傾向が強いことは確かだが、それでも、そういった「ハイエンド」な重量級オーディオ機器を適切に組み合わせた際に得られる「音」が理屈を飛び越えて素晴らしく聴き手の心を打つものがあるのもまた確かで、オーディオ的な意味での「音質」にコストと質量が強い相関を示すことは否定できない。

だから、同程度のコストでヘッドセットとヘッドフォンを比較すると、オーディオ的な側面から評価する限りは、内蔵マイクのコストの分だけヘッドセットが不利になるのは自明である。そして、一般的なプレイヤーはヘッドセットに含まれるマイクのコストを正しく判断する情報を持たないが故に、そのコストを無視して同価格帯のヘッドフォンとの比較を行うことになりがちである。
一般の感覚では、恐らくヘッドセットの内蔵マイクはあくまで「おまけ」程度の認識なのである。

それ故、今回のこの製品開発に当たっては、「ヘッドフォンとゲーム用ヘッドセットの本質的な違いとは何か?」という点について弊社社内で幾度となくディスカッションを繰り返すことになった。
既に事実上飽和市場と化しているヘッドフォンではなく、「ゲーム用」という極めてニッチな市場に特化した「ヘッドセット」として世に送り出すためのアイデンティティの確立とその再確認が、社内レベルでさえ必要であった、という事実そのものが世間一般におけるヘッドセットの立ち位置を示している様にも思えるが、ともあれ、本製品は「オーディオ機器」の一種に見える筐体設計ではあるが、その実「オーディオ」的な特性というものを、ある意味ばっさり切り捨てたチューンを施した「PC用ゲームデバイス」として完成した。

一応、本製品には諸般の事情でヘッドフォンとしての使用が可能なケーブルを同梱しているが、本質的には主としてFPSタイプのゲーム向けヘッドセットとして設計してあり、普通のサウンドリスニング用ヘッドフォンとして使用することは二の次三の次の設計になっている(注2)。まずその事をお断りしておく。

●得たものと切り捨てたもの

それでは、ゲーム用ヘッドセットに求められる特質とは何であろうか?

まず、FPSのようなゲームにおけるサウンドの役割とは、あくまで後方警戒の手段、あるいは視界の外にある事物の索敵手段の一つである。

つまり、より高解像度のディスプレイとより高性能なグラフィックカードを組み合わせて使用して索敵の可能性を少しでも引き上げようとするのと同じ次元で、ドアが開く音や足音、あるいは銃のスライドをコッキングさせる音、といった他の雑音に紛れてしまいやすいささやかな物音の検出が他の何にも増して重要、ということになる。

その意味では、実のところ腹に響くド迫力の重低音、というのはあまり重要な要素ではないし、音楽的な「快適な音」は注意力を散漫にさせる恐れがあり、ことによるとゲームのプレイを進める上で最大の障害ともなりかねない、という意味でむしろ忌避すべきものですらある。

本製品ではヘッドフォン部に密閉型の大きな筐体を採用しているが、これは再生音の漏洩対策を検討した結果選択したものである。ボイスチャット中の再生音をマイクが拾うことによって生じるループバック現象は、意思疎通を確実にする意味で極力回避されるべきもの(注3)であることは言うまでもないが、音が空気の振動によるものである以上、その伝播を阻害する完全に近い密閉構造の採用は、遮音性の向上という点で有利であるものの、その反面「自然な再生音」を得る上では大きな問題となる(注4)

実は弊社での開発過程では、有名どころのモニターヘッドフォンをはじめ、価格帯の上から下までかなりの数の他メーカー製ヘッドフォンについて同一条件の下で実測データを採り、それと試作機の特性比較、という形で本製品のチューニングを決定していった(注5)のだが、求める特性に近づければ近づけるほどに音楽的な要素が脱落していったのは、あらかじめ承知していたこととはいえ非常に興味深いものであった。

そう、第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけての時期に各国海軍の艦船で愛用された高声電話(インターホン)や高声令達器(スピーカー)(注6)、あるいは第二次世界大戦期のドイツ軍で戦車などにおいて車載無線機の入力デバイスとして使用されていた喉頭マイク(注7)などがそうであるように、大音量の騒音源の中で求める情報を伝達・収集する必要があり、またそれ自身からの音の広範囲な漏洩は極力避けるべき機器の場合、オーディオ機器で良く用いられるコピーである「原音に忠実」という要素は度外視せざるを得ない、ということなのである。

換言すればそれは、見た目がどんなに似ていても、FPSゲーム用ヘッドセットとオーディオ用ヘッドフォンは一定のコスト内で製造する限り根本的な部分で相容れず、無理に両立させる位ならば割り切って一方に特化した製品を目的ごとに別々に使用するのが望ましい、ということである。

だが、実のところを正直に言ってしまうと、本製品のチューンにはそれの前提においても特化が過ぎて多分に野心的というか危険な領域に一歩踏み込んでしまっている部分がある。

それを是と見るか否と見るか、社内でもかなりの議論があったのだが、今回はあえてその域に踏み込むことを是とした。この点については是非、読者諸氏のご意見を賜りたいと思う。

願わくは、本製品が貴方にとって良き選択とならんことを。

ダーマポイント開発チーム

(注1)厳密には、マイクのみを頭部に着装可能とする器具と一体化したものもヘッドセットと呼ばれる。戻る

(注2)それゆえ、同じゲームというカテゴリでくくられるが、音楽を聴取することそのものがゲームの魅力の一つと認識されている2D縦/横スクロールシューティングゲームやRPG、それにビジュアルノベルといった他のジャンルのゲームでの使用は重視していない。戻る

(注3)本製品でマイク部に手動でのミュートを可能とするスイッチを搭載したのも、会話不要の状況でループバック発生の可能性を根絶することが目的である。戻る

(注4)それゆえ、ハイエンドのオーディオ用ヘッドフォンほど空気に無理な負担をかけないオープンエア形のものが主流となっている。戻る

(注5)余談だが、その過程で有力メーカー各社の値段帯ごとの「音作り」の引き出しの深さ・巧さというものを嫌というほど思い知らされた。言い換えれば、単なるヘッドフォンを、ということであればとてもまともな勝負にならない、ということであり、ゲーミングデバイス特化、という当初の方針が間違いではなかったことを再確認する結果となった。戻る

(注6)人声を爆音や轟音の洪水のさなかでも認知あるいは識別させるため、入力信号に対し一定の周波数変調がかかっており、このためこれらのシステムを通すと、独特のイコライジングのかかった、情報は聞き取りやすいが本人の肉声とは似ても似つかない異様な声となる。なお、このシステムの名残は、やはり船舶用高声電話をルーツとする鉄道車両の車内放送システムに見られたが、近年は自動放送の導入等でその独特の音質を鑑賞する機会は次第に減少しつつある。戻る

(注7)砲撃等による轟音の渦中で確実な意思伝達を行うために、喉に貼り付けた喉頭マイクをさらに押しつけることで利得を確保する運用が行われた。当然ながらそこには原音に忠実な音の再現、といったオーディオ的な要素が介在する余地は皆無であった。また、同じ理由から戦車兵用ヘッドフォンは外乱要因の介在を最小限に抑えるべく、大型の密閉式ヘッドフォンが採用されていた。なお、喉頭マイクは現在でも声帯や喉頭の摘出手術を受けた人の発声代替手段として使用されているが、ここでもいわゆるオーディオ的な意味での音質は度外視されている。戻る

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